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[2024年12月2日]ジョージア情勢について

 ジョージア情勢については、別稿を用意していますが、ここでは若干の感想を記したいと思います。日本のマスコミが用いている、親欧米・親ロシアというネーミングや政治的ポジショニングの切り取り方には違和感が拭えません。

 おそらく現政権も抗議している勢力も、「親ジョージア」ではないかと考えます。両者の自己認識に大きな齟齬はないと思うからです。マスコミ報道で親ロシアとされる現政権も、ヨーロッパ統合路線の旗を降ろしたわけではありません。

 また、そもそもヨーロッパについては、少なくとも現政権はジョージアこそがヨーロッパ(の源流)という意識が強く、それは現政権だけではなく多くのジョージア人が抱いている考えです。この点は日本では全く知られていないように思われます。

 故ジュヴァニア元首相の「われわれはジョージア人である。したがってヨーロッパ人なのだ」という「名言」はジョージアでは広く知られています。ヨーロッパ人以上にジョージアこそがヨーロッパそのものなのだというわけです(故ジュヴァニア元首相については拙著『グルジア現代史』も参照)。

 なんとなれば、ワインも、キリスト教も、われわれがヨーロッパらしいと思う特徴は、西欧諸国よりもはるかにジョージアの方が歴史が古いのです。ロシアはさらにはるかに新しい。もちろんヨーロッパが体現している様々な価値観とこれに対するジョージア人の態度については別に長い説明が必要になります。

 ただ、古ければよいというものではありませんが、こうした認識は彼らの民族のプライドの根幹をなしています。

 結局のところ、現政権支持勢力と反対勢力の立場の違いとは、民意がどこにあるのかを巡って解釈が異なり、もう少し踏み込めば、イヴァニシュヴィリという半公式の指導者(与党名誉議長)の支配のあり方とロシアとの関係に対する態度の相違につきるのではないかと思います。

 現政権の力に頼る姿勢は当然のことながら非難されるべきです。しかし、聞く耳をもたないと判断したとしても、首相らを名指しで制裁対象のやり玉に挙げた欧州議会は、両者の溝を深める形でジョージアの現政権を追い込んでしまっている点も背景にあります。また、新しい世界情勢の影響も出ています。欧州議会の動きなどもみなければ、ジョージア政治は理解できません。

 すでに負傷者が多数出ていますが、「代理戦争」(のようにみえてしまう事態)と、流血の事態だけは何としても避けて欲しいと切実に思います。


(追記:昨日、駐米大使が辞任が明らかになりました。事態は混乱の度合いを深めています)


写真はラチャの名刹ニコルツミンダ。『中央ユーラシア文化事典』のカラー口絵でも紹介しています。



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